地球とプラントの関係が深刻化してきていたCE68年。
私 ―ソラ・ヒダカ― は5歳でした。
私と両親は、東のとある国からオーブに引っ越しました。
そのときのことを私はあまり覚えていません。
ただ、初めて乗る飛行機が嬉しくて、はしゃいで、お母さんにたしなめられたこと以外は。
そして、始まった戦争。
平和だったオーブにも戦火が降り懸かりました。
CE72年。
そのとき私は8歳でした。
いよいよ地球軍がオーブをせめるということで、私たち家族は避難シェルターに急いでいました。
周りは凄い人で、皆必死でした。
何度も人にぶつかるうちに、私の手は母の手から離れてしまいました。
「ソラ!」
お母さんが叫びました。
私も声を上げようとしましたが、人にぶつかられて思うように声を上げられません。
お母さんの姿は、たくさんの人が隠してしまいました。
周りの人は小さい私に気付かず、どんどんぶつかってきます。
「ソラ!」
だんだん、お母さんの声が遠のいていきました。
人の波にもまれ、流されてしまっていたのでしょう。
横から大人にぶつかられ、私はよろけました。
「おかあさん!」
私はとうとう泣き出しました。怖くて怖くて、堪らない。
すると、近くを通りかかったおじさんが私を抱き抱え、走り出しました。
「大丈夫。きっとママも無事だからね。」
そしてひとつのシェルターに辿り着き、
「小さい子供がいるんだ!入れてくれ!」と私を割り込ませてくれました。
おじさんは、中にいた若いお姉さんに「親とはぐれた子だ」と私を預け、
私に「きっと、パパもママも無事だから、ここで良い子にしてるんだよ」と言い、
私の頭を撫でてシェルターを出て行きました。
そのおじさんとは、それから会っていません。
私はもう何がなんだか分からず、激しい轟音のする中、お姉さんに必死にしがみつきました。
お姉さんは悲鳴を上げながらも、私を抱き締め、「大丈夫、大丈夫だよ」と声をかけてくれました。
しばらくして轟音も鳴り止み、シェルターに通信が入りました。
オーブは地球軍に降伏し傘下に入ったというものでした。
私にはよく分からなかったけれど、もう怖いことは終わったんだとお姉さんが言ってくれて、ほっとしました。
その後、シェルターは開き、皆あちこちに列を作っていました。
戦いは終わったのに、まだ騒然としていて、私も落ち着きませんでした。
どこからか、焦げた臭いもしました。
真っ暗な木もありました。
私はお姉さんに手を引かれ、あちこちに行きました。
お姉さんは何か偉そうな制服を着た人と、真剣なまなざしで話をしていました。
偉そうな人は、じろりと私を見ました。
何となく不安になって、私はお姉さんを見上げると、お姉さんは困ったような顔をして、私に言いました。
「お姉ちゃん、ここまでしか一緒にいられないの。ごめんね。」
そして、私をそっと抱き締め、「この人がパパやママを探してくれるからね。」
そう言って、お姉さんは去って行きました。
偉そうな人は、泣きそうな私を一瞥して「来い」とだけ言うとスタスタと先に歩き出しました。
そして、近くの小学校の体育館に着きました。
そこにはたくさんの子供がいました。
泣いてる子、呆然としている子、眠っている子……笑っている子は1人もいませんでした。
偉そうな人は私の名前と歳を聞いたあと、このへんにいるように言って奥の部屋へ行ってしまいました。
仕方ないのでその場に膝を抱えて座りました。
寂しくて、怖くて、泣きたくなりました。
ふと入口から声が聞こえました。
すると私の隣にいた子がぱっと笑顔になり、「ママ!」と叫んで駆けて行きました。
「お迎えが来たのよ。」
反対隣にいた、私と同じ歳くらいの子が呟きました。
「あなたもパパやママとはぐれたの?」
私はうなずきました。
「私ね、転んじゃったの。そしたらパパが居なくなっちゃった…」
そう言う彼女の黒髪は、土で汚れてました。
少し離れたところで、不安そうにキョロキョロしている子がいました。
その子は私たちと目が合うと、こっちに向かって来て、おずおずと聞きました。
「ここ、良い?」
私たちはもちろんうなずき、席を空けました。
「私、シノ。」隣にいた子が自己紹介。
「ソラ。8歳。」
「私はハル。私も8歳だよ。一緒だね。」
私たちは、ぎこちなく、でも安堵して笑いました。
私たちは、何日かそこで過ごしました。
早くお父さんとお母さんに会いたくて堪らなかったけど、
戦闘での混乱でなかなか見つからないみたいでした。
私たち3人は、親や親戚のお迎えが来ている子達を羨みながら、3人寄り添って眠りました。
そして一週間が過ぎる頃、私たちは偉そうな人に連れられ、質素でも大きな家に来ました。
それは孤児院でした。
偉そうな人は院長さんに一言二言何か行った後、足早に立ち去って行きました。
「ねえ、パパとママは?」
堪えきれずにシノが院長さんに聞きました。
私たちはまだ何も聞かされていなかったのです。
院長さんは私たちに、
私たちの両親が死んだこと、そしてこれからはここで暮らすことを教えてくれました。
両親の死を、私たちはすぐには認められませんでした。
ただ会いたくて、会えないのが悲しくて、何日も泣きました。
そして――― CE78年。
15歳になった私たちは孤児院を出て、全寮制の女学院に通っています。
勉強やアルバイトに大変だけれど、私は逞しく生きています。
今日も、
アルバイトが終わったら寮の部屋に戻って読み掛けの本を読む、
そんな日になるはずでした。
「来い!」
激しい銃撃戦の中、漆黒の服をまとった青年が私の手を引きました。
私の運命は、この日から、また動き出したのです。