私が殺したんだ。
仲間も、大好きな姉も―。
「いやぁぁあああっ!!」
甲高い悲鳴と共に、メイリンは飛び起きた。
じっとりと嫌な汗が背中を伝う。
息も荒い。
「ゆ…め……?」
しかし、あの光景は夢ではない。
ルナマリアの乗ったインパルスが、爆散した。
ミネルバからの脱出ポットが、撃破された。
正確には、それを撃ったのはメイリンではない。
インパルスを撃ったのはジャスティス、脱出ポットを撃ったのはドムだ。
しかし、メイリンはどうしようもない息苦しさを覚える。
「お…ねえ…ちゃん……」
ガタガタと震える体。
頬を伝う涙。
「み…んな……」
あのとき、自分が通信を図っていなければ、彼らは動きを止め、撃たれることはなかったかもしれない。
あのとき、自分がもっと早く通信をしていれば、彼らが死ぬことはなかったかもしれない。
いや……
あのとき、自分が脱走していなければ、彼らと共に死ぬことができたかもしれない…。
失った悲しみと自責の念と、死への願望で、彼女は押しつぶされそうだった。
発作的に、ベッドの傍らにあるサイドテーブルの引き出しを開ける。
中にある物を握り、取り出す。
カッターナイフの刃が、冷たい光を放った。
汗でべっとりと張り付いた袖をまくる。
腕は既に傷だらけだ。
―これは、自分への罰。
いつものように、彼女は腕に刃を当てた。
だが、そこに先ほどの悲鳴を聞きつけたアスランが駆け込んできた。
メイリンの手にしたカッターを目にし、顔色を変える。
「何を…しているんだ…っ!」
アスランはメイリンの腕を掴み、カッターナイフを取り上げようとする。
メイリンは抵抗した。
「離してぇっ!」
どうして止める?
私が悪いのに。全ては私が…!
こうして心配させてしまっていることも、私のせいなのに!!
しばらく続いたもみ合いも、メイリンが力尽きて終わった。
両腕をアスランに取り押さえられ、メイリンはただ泣きじゃくった。
どうして、死んでしまったの…
どうして、私は生きているの…
どうして、こんなことになってしまったの…
どうして… どうして…
アスランは、メイリンの左腕を見て、眉をひそめた。
白く細い腕。そこに、痛々しい傷が無数に走っている。
だが、この腕以上に、メイリンの心は傷ついているのだ。
そして傷つけたのは……他ならぬ自分。
「メイリン」
メイリンが涙に濡れた目を上げる。
視線が、翠の瞳と出会った。
「君がナイフを向けなきゃいけないのは、その腕じゃないだろう?」
アスランの手が、カッターナイフを握ったメイリンの手を引き寄せる。
導かれた先は―
「ここ、だろ?」
アスランの左胸……心臓。
メイリンは目を見開き、
カッターナイフを握る己の手と、刃の先…アスランの左胸を見つめた。
そう、彼は自分の姉を殺した仇―…
だが、その刃を突き刺すことは、メイリンにはできない。
手が震えた。
自分は、彼を殺すことはできない。
と、刃の上に雫が落ち、メイリンは視線を上に戻す。
そこには、自分と同じように涙するアスランがいた。
…泣きながら、辛そうに、微笑んでいた。
メイリンは、はっとする。
その手から、カッターナイフが音を立てて床に落ちた。
メイリンは夢中で目の前の人に抱きついた。
すがりつくように、抱きしめるように。
自らを罰する自分を見て、アスランは苦しむ。
そのアスランを見て、また自分は自らを罰する。
だが、それを見てもまた、彼は苦しむだろう。
自分が自分を罰すれば罰するほど、アスランは自身を責めて傷つく。
自分は馬鹿だ。
辛いのは自分だけではないのに…。
自分と同じくらい…もしかしたら自分以上に、彼も傷ついているのに。
「…っ、うう……」
二人は抱き合ったまま、泣いた。
生き残った。
生き残ってしまった。
だから…
生きよう、大切な人と共に。
守ろう、大切な人と、その人のために自分を。
そして、明日を……。