今日、私はシンさんと街まで買出しに行くことになりました。


武器や医療品、生活雑貨などはまとめて購入できるそうなんですが、
どうしても市場とかでしか手に入らないものとかもあるみたいで。

皆の中でも一番、不自然なく街に溶け込めそうな私が行くことになったのです。

「うちらじゃ、オイルや硝煙の臭いがするだろうし。」

そんな、笑って言われても……。
コニールさんは冗談のつもりでも、全然笑えません。

「んで?何買ってくれば良いわけ?」

私の隣にいるシンさんは、ずっと膨れっ面です。
今日のシンさんの役目は、言わば私の護衛。…本人はものすごく嫌そうです。

ただの買い物と言っても、無事に済む補償はどこにもありません。
なぜなら、今私はレジスタンスに身を置いているから。
治安警察が見張ってるかもしれないので、油断は出来ないのです。

だから、
「常に警戒を怠らないように。でも警戒しすぎて不審にならないように。」なんて、
皆して無茶なことを言います。

不安げな表情の私と、不機嫌な表情のシンさん。
買い物メモを手に市場へ向かうことになりました。



それは、気持ち良いくらいに晴れている日でした。






「わあ…!」

海に程近い市場に着くと、そこはすごい人混みでした。

「宇宙にまで進出してる人類がいまだにこんな古典的な市場が好きなのは、これを必要としているからだよ。」
リーダーは、時々よく分からないことを言います。

でも、ここにいる人たちは皆楽しそう。
大声で客寄せをしている人、商品を手にとって見ている人、広場で駆け回っている子供たち。
ずっと戦いの中にいてしばらく見ていなかった、笑顔の溢れる街。





「あっ…」

私は、小さなアクセサリーの屋台でふと足を止めました。

そこの棚にそっと置いてある、ピンクの石がはまったネックレス。
私の目は、自然にそれに惹きつけられました。

「これかい?」

屋台のおじさんが、それを手にとって見せてくれます。

「これはね、願いを叶えてくれる石だよ。」
「願いを?」

そう、と言って私の手にネックレスを持たせてくれます。

「近くの山で採れる石なんだがね。不思議な力が宿っているのさ。」

おじさんの話に引き込まれそうになりながら、
何気なく値段の札を見て私はびっくりしました。

高いよ、高すぎる……!

現地で採れるという無名のその石は、
高価な宝石ほど高いわけではないにせよ、とても私のお財布からは出ない値段でした。

「たとえば5年前の戦争時には…」
「い、いいですっ!その……また今度…。あ、ありがとうございましたっ…!」

まだ話し続けようとするおじさんの話を遮って、私はすぐにその場を去りました。
あのまま話を聞き続けたら、買わないといけないような雰囲気に持っていかれそうな気がして…。



「どこ行ってたんだよ。」
「…ごめんなさい。」

あの後私は迷子になってしまい、シンさんが私を見つけた頃にはすでに市場も店じまいをしていました。
結局、残っていた買い物は、私を探している道中にシンさんが済ませてくれたようです。

申し訳なくて、適当な言い訳をする気にもならなくて、私は口をつぐんでいました。
シンさんはやっぱり不機嫌で、何も言いません。前を見据えたまま運転しています。
帰りの車の中は、妙な沈黙に包まれました。

「あ、そうだ。」

皆のいる基地まであと少しというところで、
突然、シンさんが思い出したように私のほうに向きました。

「ほら、これ。」

シンさんが私に投げてきた小さな袋。
私は首をかしげながら開けてみました。

「あ…」

そこにあったのは、あのピンクの石のはまったブレスレット。
私の見たネックレスよりも格段に小さな石だけど、でもその綺麗な色は変わらない。

「これ…?」

どうしたの…って聞こうとしたら、シンさんはそっぽを向いて言いました。

「このへんの山で採れる石で、なんか妖精が宿ってるとかで、身を守るって力があるとかないとか?」

…説明になってないよ。
でも…

「本当かどうか知らないけど、一応持っておいたほうが良いんじゃないか、お前。」

あえてぶっきらぼうに言っているけど、
でも、
シンさんの本心が見えた気がして、ちょっと嬉しい…。

「うん。ありがとう!」

私が素直にお礼を言ったら、シンさんはますますふくれっ面になってしまいました。





沈みかけた陽が海の水面に反射して、街をキラキラと光らせる。
穏やかな風が嬉しい。

そんな日でした。