「シンっ!」
「アスラン…!!」

めまぐるしく交錯する、デスティニーとジャスティス。
2人の力はほぼ互角で、なかなか決着が付かない。

長引く戦闘に、アスランは歯噛みする。
ここで時間を取られるわけに行かないのだ。
そうこうしている間に、レクイエムがオーブに向けて撃たれてしまう。

オーブはデュランダル議長の掲げる「デスティニープラン」を唯一否定する国であるがために、狙われている。
世界を議長の思惑に染めないためには、オーブを守らねばならない。
そもそも、そういう理屈を抜いたとしても、
かの国はアスランの第2の故郷であり、そして……大切な人が守りたい大切な国である。

オーブを守らなければ…!

アスランとて、戦友であるシンとは戦いたくない。
だが、守りたいもののためには戦わなくてはならないときもある。

「シン…!そこを……どけ…っ!!」

デスティニーの放つビームをシールドで受けながら、ジャスティスはなおもデスティニーに接近していった。










ボロボロになりながらも互いに譲らない2機を見つめながら、
少し離れた宙域にいるインパルスのコックピットで、ルナマリアはどうしようもない憤りを感じていた。



どうして、2人が戦わなくちゃいけないの?!
憎しみあっているわけでもないのに…! 戦いたいわけでもないのに…!
「戦争だから」? 「裏切ったから」? 「敵だから」?
…違う。アスランは私たちの敵なんかじゃない。
きちんと話し合いさえすれば、こんなことにはならないはずなのに!!

どうして…どうして……こんなこと……!



「2人とも…もう…やめてよぉ…っ!」

溢れる感情が涙となって頬を濡らし、耐え切れなくなったルナマリアは2機に向かっていった。










デスティニーに接近したジャスティスは、勢いをつけてデスティニーの足を蹴り上げた。
ちょうど間接の弱い部分に強い衝撃を与えられ、デスティニーの足はそのまま飛ばされていく。
足が切断された衝撃でデスティニーがバランスを崩した瞬間を狙い、
ジャスティスが手にしたサーベルでデスティニーの左腕を切り裂いた。

そのままの勢いで、銃をかまえるデスティニーの右腕を切断すべく、ジャスティスがサーベルを構え直したとき。

2機の間に、1機が割り込んだ。



デスティニーのコックピットを狙ったわけではない。
ただ戦闘不能にさせようとしただけ。

ただそれだけだった。


……だが。


突然のことに、手にしていたサーベルをずらすことも間に合わず、
割って入った機体のコックピットをなぎ払ってしまった。








一瞬だった。

だが、永遠だった。








爆発の光に目を焼かれても、衝撃で機体ごと吹き飛ばされても。
2人の少年は、なおも呆然としていた。




目の前に浮いているものは何だ?
何の破片だ?
インパルスはどこへいった?

…それとも。



「…ルナ…マリア…?」


口にした途端に、なんともいえない感触が背中を這い上がってくる。


「…な…んで……」


故意ではないにせよ、人を…よく知った者を…手にかけてしまった事実。
あまりに突然に、守ると誓った大事な人が目の前で散ってしまった現実。

2人は己に課せられた使命も何もかもを忘れ、ただ、闇に包まれた体を震わせていた。
















「お…ねえ…ちゃん…?」

モニター越しに見た光。
その光は、誰の命を奪った光だったのだろう。

光の収まった後、そこにあったもの。
動きを止めたまま呆然としているジャスティスとデスティニー。
そして、先程までそこにいたはずのインパルスの……残骸。

周りは目まぐるしく戦闘が続いているというのに、この空間だけは時間が止まっているかのようで…。

「……嘘よ。」

メイリンは力なく、頭を振った。


こんなこと、あるはずがないのだ。
いつも大丈夫と笑って出撃して、いつも無事に笑顔で戻ってくる姉が……そこにいるなど。
戦争が終わったら、姉やミネルバの仲間と会って、今度こそ皆で平和に暮らせるすべを探そうと……


しかし。
そんな少女の目の前で、また1つ、光がはじけた。



ミネルバから離艦した救助ポッドが、攻撃で一瞬にして消し飛んだ瞬間だった。











少女の、声にならない悲鳴は、暗い星空に溶けて……消えた。























戦場を煌々と照らす大きな光は、
深く暗く、決して消えることのない闇を、人間の心に作り出してやまない ――