朝、寝室のカーテンから柔らかい光が降り注ぎ、室内を照らした。
ふと目を覚ましたメイリンは、自分の傍らに愛しい夫がいることに安堵する。

あぁ夢じゃなかったんだ、と。

半年前に復職したアスランは、やはり当然のように仕事に忙殺させられていた。
毎晩アスランの帰りを待つメイリンだが、耐えきれずに寝てしまうことも多かった。寝ているメイリンを起こしてしまうのは忍びない、とアスランはよく客間の寝室で仮眠を取り、メイリンが目覚めるより早く家を出てしまう。

そんなアスランの気遣いが、メイリンには苦痛だった。

どんなに夜遅くだって構わない。起こしてくれればいい。
顔を見て、ほんの一言だけでも言葉を交わしたかった。

ただでさえ孤独にさいなまれているのに、メイリンにはまた別の不安があった。

カガリ・ユラ・アスハ。
統一地球圏連合主席にして、アスランの元恋人。
現在アスランを忙しくさせている張本人である。

妻である自分とはほとんど顔を合わす機会がない中、元恋人とは毎日会い始終行動を共にしている。
これで夫を疑わずにいられるわけがない。
まさか国の長たる人物と自分の夫が未だ恋仲にあるなんて、信じたくない。
だが、「首長にすり寄る蝙蝠」と陰で呼ばれている夫を完全に信じることは無理だった。

アスランが自分と結婚したのは、同情だったのではないか?

そんな不安に押しつぶされそうになりながら、メイリンは必死に耐えた。
だがとうとう耐えきれず、昨晩はアスランに当たってしまった。
何度も抱いてと懇願し、アスランを困らせた。
アスランと繋がっているときだけ、彼が自分のものだと実感することができたから……。

メイリンは隣で気持ちよさそうな寝顔をしている夫を見て微笑んだ。
1日だけとはいえ久しぶりにとれた休日。
今日だけは彼を独り占めすることができる。
外出してもいいし、疲れてるアスランと家でゆっくりくつろぐのも良い。

「どうしよっか?」

未だ眠り続ける夫の頬を軽くつつきながら、メイリンは楽しそうに呟いた。
早く起きて、その瞳で私を見て……。

「ん……カガリ?」

何気ない一言だ。
ただの寝言だ。
だが、アスランのその言葉は、メイリンの胸の傷をえぐるには十分だった。

必死に被い隠そうとしていた傷口から、不安と疑惑…そしてどうしようもない憤りが溢れ出す。

メイリンは音を立てないようベッドから出て、バスルームへ飛び込んだ。

程なくして、バスルームからシャワーの音と共に微かに嗚咽が漏れていたことを、
未だベッドで寝息をたて続けるアスランは知る由もない。