ドンという音と共に、腹部に鈍い痛みを感じた。
撃たれたのだと理解しても、相手に銃を向けようとは思わなかった。
足の力が抜け、その場に倒れこむ。
私を撃った青年は無言で近づいて、私の前で歩を止める。
その足が、私の手にあった拳銃を蹴り飛ばした。
カラカラと音を立てて、私の手の届かないところまで、銃は飛んでいった。
痛みをこらえながら視線を上げると、濃いサングラスの奥にある瞳と目が合った。
私は知っている。
この瞳を。この人物を。
だから、もう反撃をしようなんて気は起きない。
そう。これは罰なのだ。
彼の最愛の女性を…
自分の姉を…
そして仲間たちを…
…死に追いやったのは私なのだから。
カチリ、とこめかみの辺りで音がした。
冷たいものが、私を狙っている。
死という罰を受け、この罪から解き放たれる。
私は目を閉じて、静かにその瞬間を待った。
「メイリン!」
聞き覚えのある声がした気がした。
そしてバタバタと自分の元から遠ざかる足音。
こめかみの冷たい感触も、もうなかった。
「追え!逃がすな!」
そして数人が自分を通り過ぎてゆく。
おそらく、治安警察だろう。まったく、来るのが遅すぎる。
「メイリン!」
誰かに抱き起こされて、私は微かに目を開けた。
鮮やかな碧の瞳が不安げに、そらされること無く、私を見つめている。
……そんなはず、ない。
だって、彼は、今日も首長の護衛をしているはずだから。
私なんかよりも彼女を選んだ彼が、こんなところにいるはずがない。
「メイリン!」
……そんなはず、ない……のに。
私に触れる彼の手は暖かくて、それが本物だと教えてくれる。
私が愛しいと感じた、でも長く触れていなかった、彼の手が。
……本当に?
首長の護衛という仕事を投げてまで?
何故、私の元へ?
浮かんでくるのは疑問ばかりだけど、でも……暖かい。
「医療部隊を!早く!!」
いや…。
私のそばに居て。
どこにもいかないで。
「アス…ラ……」
「メイリン!」
腹部に、もう痛みは感じない。
彼の服を強く握る手の感覚も、もうない。
視界は涙で濁り、愛しい人の顔すら滲んでしまう。
それでも。
せめて最期にだけ。
伝えたいことが……
「……」
必死に言葉をつむごうとしても、震える唇からは空しく息が通り過ぎるだけ。
頬を温かいものが伝い、視界はさらにぼやける。
「…っ、メイリン!」
私を抱く手に、力がこもった。痛いほどに。
ああ、今、私は………
白んでゆく世界の中で、私は深い赤を想った。